仕事における日本語能力試験N1の実力

  • 2020-5-11

『日本語能力試験N1合格』それって必要?

外国人を募集する求人票を見ると「日本語能力試験N1合格」という条件をよく目にします。資料を読む、メールを書く、会議を聞く、打ち合わせで話す・・・どのような業界、職種、業務においても「読む、書く、聞く、話す」の四技能は欠かすことのできない能力なので、日本語能力試験で最も難しいN1合格を採用条件とすることは、妥当なことのように思えます。

しかし、これは大きな間違いです。正しくは、日本語能力試験N1合格では不十分です。そう、日本語能力試験N1合格ではだめなのです。

理由としては、日本語能力試験は「単語や文法などの言語的知識や学校の教科書を読み解く力」を測るものであり、「現実の仕事を日本語で処理する力」を測ってはいないからです。知っていることとできることとは違うように、日本語能力試験N1に合格するほど高いレベルで日本語を知っていても、仕事で使えるとは限らないのです。わかりやすくするため、ここで一例を示します。

音楽や美術、彫刻などの芸術は、聴く人、観る人の批評によって育てられる。悪い演奏したら、良くない作品を出品したら、その芸術家は次に表舞台に出る機会を失う。ところが、医師や看護婦が行なう医療の実践を評価できる患者は作られてこなかった。一般の人に知識を与えず、医療について評価できる患者がいない。だから医のアートが発展しないのである。これは患者にとってはもとより、医療者にとっても不幸なことではないか。

【問題】筆者がここで最も言いたいことは何か。
1. きちんとした医療の実践ができない医療者は表舞台から去るべきだ。
2. 医療者を不幸にしないために、一般の人も医療の知識を持つべきだ。
3. 医療も技術と同様に、医療の良し悪しを評価できる患者が必要である。
4. 悪い演奏や良くない芸術作品は、病院における医療事故と同じである。

もっと日本語能力試験N1の問題に挑戦する!

※出典 国際交流基金・日本国際教育支援協会ホームページ

この問題は、日本語能力試験N1の中でもかなり短い文章を抜き出したものです。日本語能力試験N1に合格するためには、このような問題を数分でサクサク解けなければなりません。

※ちなみに正解は「3」です。日本語ネイティブにとっても、この設問は簡単でないと思います。

確かに、このような難しい文章を読み解ける人は、かなり高いレベルで日本語に精通していると言えます。しかし、このレベルの日本語力が本当に求められるのは、例えば通訳・翻訳などの「多くの単語や熟語、文法知識を活用した表現力が必要になる」限られた職種であり、多くの仕事は別にこのような複雑な文章を読み解けなくても成立するでしょう。むしろ、会議などで「医療の実践を評価できる患者は作られてこなかった」「医のアートが発展しないのである」などとの着飾った表現を使ったら「もっとわかりやすく簡潔に話せ」と言われるのではないのでしょうか?日本語能力試験N1とは、このようにレベルは高いけれども、仕事という場面に適したものではないのです。

職場で使える日本語力とは?

それでは、仕事で使える日本語をどうやって見極めたら良いのでしょうか?
採用時に見るべきポイントは「知っている日本語能力を場面・状況に合わせていかに適切に使えるか」です。具体的には仕事という場面において、適切な日本語を使えるか?ということです。そして、これは4つの要素に分解することができます。

情報を正しく伝える力

場面・立場に合わせて伝える力

わかりやすく伝える力

親しみをもたらす伝える力

今回の記事では、それぞれについての解説は割愛しますが、仕事で使える日本語とは上記4つのいずれも満たしていることを指します。

もし、商品やサービスについて正しくない情報を伝えたり、お客様に対して敬語を使わなかったり、会議で難解な表現ばかり使ったり、そっけない態度で接したりしたら、どれほど日本語に精通していたとしても仕事では活躍できないはずです。だから、日本語能力試験N1合格という資格上の能力だけを見るのではなく、実際の運用能力を見なければならないのです。

幸いなことに、現代は驚くほど簡単にウェブ面談ができます。外国人材採用の場合は、一人10分のウェブを活用したカジュアル面談でもいいので、日本語運用能力を見定めることが有効です。

「とりあえずN1」をやめて、採用可能な人材の幅を広げる!

日本語能力試験N1の合格率は全体の3割程度と高くなく、本当にそのレベルが必要かどうかを精査しないまま採用条件に定めてしまうと、その時点で「実は貴社にマッチしていたはずの人材」を多く逃してしまうことになります。

「とりあえずN1合格」と定めてしまう前に、まずは貴社で外国人材が担当する業務内容に必要な日本語能力はどのようなものなのかを考えてみてください。口頭会話重視なのか、読み書き重視なのか、社内の人間とのコミュニケーションに支障がなければいいのか、社外対応もこなせた方がいいのか等、ひと口に日本語能力と言っても、業務内容によって必要な要素は変わってきます。

外国人材コンサルタントとして、年間1,000人以上の外国人材との面談をする中で我々が学んだことは、「話してみるまで日本語能力試験の結果を信じてはいけない」ということです。N1に合格していても質疑応答が困難であったり、逆にN3であってもほとんど違和感のない日本語を話す人もいます。

実際に会話をしてみると、資格と実力とが合致しない背景も自然と浮き彫りになってきます。例えば、最近面談した日本の四年制大学に通うN3合格のインドネシア出身の女性は、非常に流暢な日本語を話します。彼女は「N3から先は経済的な事情で受験ができなかったが、独学で日本語を学習し、今では大学の卒業論文も日本語で書けるようになりました。」と話しており、向上心に溢れた勤勉な人物であるとわかりました。このような人物を「N3」という書類上の数字で選考から弾いてしまうのは、非常にもったいないと感じます。ほんの少しの時間でも対話すれば採れたはずの優秀な人材が、いま日本ではたくさん放置されているのです。

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中村拓海

高度外国人材に特化した人材コンサルタント。人材探索から在留資格申請、入社後の日本語教育、ダイバーシティ研修等、求人企業の要望にあわせた幅広いサービスを提供する。また留学生専門キャリアアドバイザーとして東京外国語大学、横浜国立大学、立教大学、創価大学等で外国人留学生の就職支援を行い、80カ国・500名以上の就職相談を受ける。内閣官房、内閣府、法務省等の行政および全国の自治体における発表や講演実績も豊富。

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