何を求めて外国人社員は働くのか?

  • 2020-7-10

日本は給料が安い?

6月10日@DIMEにて『日本で働く外国人正社員に聞く職場に対する不満TOP3、3位給料が安い、2位昇給しない、1位は?』という記事が出ていました。その記事では、パーソル総合研究所が外国人雇用に関して「企業」「日本人上司」「外国人本人」を対象に行った調査結果が取り上げられていました。

その調査によれば、日本で働く正社員の外国人に職場に対する不満を聞いたところ、1位は「昇進・昇格が遅い」、2位は「給料が上がらない」、3位は「給料が安い」だったそうです。「日本は他の先進国に比べて給与が低い」などと耳にすることも多いので、この結果には驚かないでしょうか。

また、正社員の外国人のうち32.6%が「私は、孤立しているように思う」と回答しており、正社員の外国人は孤独感を抱えがちであるとも指摘されています。孤独感が強い層は、仕事のパフォーマンスや会社満足度は低く、転職意向は高くなる傾向にあるそうです。

今回は、この調査結果に関連して、日頃私が見聞きしている体験について書きます。

なぜ、外国人は日本で働くのか?

上記3つの不満は、パーソル総合研究所以外の機関によるアンケート調査でもよく見られる結果です。ただ、私はこれらの結果をそのまま受けて、ただ給与を上げればいいとは思っていません。私の知る限り「給与が高いから日本で働く」と決めた人はほとんどおらず、報酬によって意志決定が左右される人は、思っている以上に少ないのではないかと考えているからです。

なぜ各種アンケートで「給与が低い」という回答が多くなるのかというと、母国で成功している者と比較して低いとか、海外まで働きに出ている割には想像よりも稼げない、などのように、自身の高い期待値と比べて低いと答えていると想像します。我々日本人も一般的に言えば、他国へ働きに出るのなら、母国で通常もらえるであろう給与よりも高い報酬を期待するでしょうし、例え生活に困らないだけの報酬を得ていたとしても、「不慣れな環境の中、身一つで頑張っているんだからもっと報酬を得たい」と期待値を上げるでしょう。そのような中、アンケートで聞かれれば、「(辞めようとまでは思わないけれど)給与が低いのが不満」と答えるはずです。要は、この回答は海外で働く者にとって「YES」と答えやすい項目なのです。

では、彼らは給与ではなく、何を求めて日本で働くのでしょうか?弊社が様々な属性の外国人と面談をする中で気づいたのは、主に以下の4つの動機があるということです。

外国人が日本で働く4つの主な動機

  1. 日本が好き。日本に住みたい。そのために働く。
  2. 親類が日本にいて、来日を勧められた。生活のために一緒に働く。
  3. 変わった環境で挑戦をしてみたい。安全な日本は、うってつけの場所。
  4. 日本で稼いでいる人の話を見聞きした。自分もそうなりたい。

これらの回答を見ると、最大の目標は「日本で暮らすこと」であり、その手段として「働くこと」を捉えています。そのため、生活が苦しくないのであれば、給与や報酬が低いと感じていても、転職しようとはならないのです。実際、弊社に転職相談に来る方々は、「仕事が単調で成長が感じられない」「キャリアアップが期待できない」「労働時間が長すぎる」「勤務地が遠すぎる」「職場の雰囲気が悪い」などとは言っても、「給与が低いので転職したい」と相談しに来る人はほとんどいません。意外に思われるかもしれませんが、多くの人が同水準であるならばOKと言い、さらには多少下がったとしても構わないと話す人も少なくありません。

そもそも、高い給与を主軸に職探しをするのであれば、母国で高待遇の仕事を見つける努力をするはずです。海外で一攫千金を狙うとしても、言語・文化的差異が小さく初期投資が少なくて済む国か、日本語ではなく英語を身につけてアメリカやヨーロッパを目指すはずです。従って、「給料が安い」も「給料が上がらない」も、真っ先に取り組むべき重要事項ではないのです。

対策すべきはこの3つ

それでは、外国人社員の定着について、このアンケート結果のうち、どの項目について対策をすれば良いのでしょうか?私の経験から話すと

昇進・昇格が遅い(1位)
技能・スキルが伸びる仕事ができない(10位)
職場で孤立している(17位)

の3つに対策を打つのが定着施策として効きます。

圧倒的多数の「昇進・昇格が遅い」

まず、昇進・昇格が遅い(1位)についてですが、彼らがどのくらいの早さで昇進・昇格を期待しているのかを知る必要があります。活躍して会社に貢献している人であるほど自身の処遇について期待が高まるでしょうし、辞められたら会社にとっても損失が大きいです。人事面談等でしっかり話し合い、明らかにしましょう。

私たちが転職面談でこの手の相談者と話すと、期待していた昇進・昇格の期間は1年半〜2年くらいが多いようです。そして、その判断の根拠は身近で成功している友人や同級生などです。母国で同じような年代、仕事をしている人が1年半から2年ほどで部下を持ってプロジェクトを率いたり、素晴らしいパフォーマンスを発揮して称賛されたりしている中、自身は業務の一作業のみ担当していたり、日々のルーティンをこなしたりしている・・・この状況が我慢ならないわけです。

仕事で活躍する人ほど情報収集のアンテナが高く、また他の人よりも輝きたいという意欲を強く持っています。そのため、「昇進・昇格が遅い」という不満を放置することは優秀な人材を失うことに繋がりやすいです。必ず対策しましょう。

認識の違いから問題発生「技能・スキルが伸びる仕事ができない」

これは外国人社員に共通してよく見られます。「大学で学んだことを仕事で生かしたい」「身につけたスキルを更に磨きたい」という職務へのこだわりが日本人以上に強く、業務内容が自身の希望とマッチしなければ転職への決断も非常に早いです。前述の「昇進・昇格の希望」とあわせて人事面談等でしっかり話し合っておきましょう。

弊社がよく見る残念なケースとして、仕事を与える上司と与えられる外国人社員との間で仕事に対する認識が異なっており、その違いを埋め合わせないまま面談だけしているため、定着につながっていないものがあります。

例えば、日本人にとって「下積み」という概念は広く理解されており、仕事の基礎力を身につけるために必要なプロセスであると違和感なく受け入れられています。しかし、外国人社員にとって「下積み」に相当する業務は、パートやアルバイト、外注先等が行うべきであり、正社員が行うべきものではないと映ります。私の経験では、部活動や徴兵制など上下の序列が決まっている組織で活動した経験がないと、「下積み」の概念は伝わりづらいようです。

はじめに、この違いを理解した上で、「下積み」の概念を説明し、当面依頼する業務は「下積み」という明確な意味があることを伝える必要があります。そうしないと、「こんな仕事をするために入社したのではない!」という思わぬ反発を生み、早期離職につながる恐れが出てきます。

少しの工夫で対策可能、効果は非常に高い「職場で孤立している」

職場での孤立は、当アンケートでは17位に入っていますが、定着施策においてかなり重要な項目だと思います。元記事にも”孤独感が強い層は、仕事のパフォーマンスや会社満足度は低く、転職意向は高くなる傾向にある”という記載がありますが、まさにその通りだと思います。そして、職場での孤立は、ほんの少しの工夫で対策が可能な割に効果が高いので、ぜひ取り組んでいただきたい項目です。

元記事には具体的施策として「歓迎会の開催」「相談窓口の設置」「母国語対応の指導者の配置」等が挙げられています。もちろん、これらの施策も有効なのですが、私はもっと小さく、日常に溶け込んだ施策の方が良いと考えています。例えば、一緒に昼食を食べたり、3分ほど立ち話をしたりなどです。

コミュニケーションを取るために別途場を設けてしまうと、手間暇もかかる上、その場の雰囲気に馴染むようコミュニケーション形態が制限されてしまいます。昼食を食べる、立ち話をするなどといった日常の中でコミュニケーションを取ることで、彼らの本音に触れることができます。そして、本音で話をすることによって相互理解と親密度は効果的に高まります。

実は、弊社が定着支援の依頼を受けたとき、真っ先に見るのは昼食をどこで、誰と食べているかです。いつも日本人と違う場所で食べている場合は要注意、場所は同じだけれども一人で食べている場合も同様です。今すぐできることなので、貴社の外国人社員がどこで、誰と昼食を食べているか確認してみてはいかがでしょうか?

質の高いコミュニケーションを心がけよう

今回、アンケート結果について私の推測や考察も交えながら定着に向けたコツを紹介しました。最後に総括としてお伝えしたいのは、各個人にあわせた質の高いコミュニケーションを心がけることが大切だということです。”外国人”全体の傾向を把握することは何かと便利ですが、定着させたいのは目の前ひとりですので、その人に寄り添った対応が重要です。あまり大枠にとらわれず、臨機応変に対応策を打つことが理想です。

中村拓海

高度外国人材に特化した人材コンサルタント。人材探索から在留資格申請、入社後の日本語教育、ダイバーシティ研修等、求人企業の要望にあわせた幅広いサービスを提供する。また留学生専門キャリアアドバイザーとして東京外国語大学、横浜国立大学、立教大学、創価大学等で外国人留学生の就職支援を行い、80カ国・500名以上の就職相談を受ける。内閣官房、内閣府、法務省等の行政および全国の自治体における発表や講演実績も豊富。

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